神戸ビエンナーレ2013で作った「種まきミル」を岩手に運び、とびがもり水車音楽祭2014から毎年改良を加えながら使用した1号機に加え、とびがもり水車音楽祭2015に2号機が作られました。フレームは地元の大工さんが「ほぞ」の技術を使って本格的に作成、こちらも毎年様々な楽器が新たに加わったり入れ替わったりして成長を続けています。
今回はまずこの「種まきミル2号」にとびがもり水車音楽祭2019時点で組み込まれていたカラクリについて説明していきます。
とびがもり水車音楽祭での水車の回転は概ね30rpm程度。その回転を曲のテンポに合わせて変えるために変速機が取り付けられています。この変速機はプロジェクトメンバーの自動車メカニックCさんが車のトランスミッションを再利用して作った4段変速仕様。ニュートラルがついているので曲の終わりでピタッと止めることができる優れもの。はじめの数年は細かいテンポ調整は水車の水量のコントロールで行なっていましたが、2016年よりベルト式無段変速機を挟むことによってシームレスな回転速度調整ができるようになりました。
レオナルド・ダビンチが手稿に残したスケッチをもとに作られました。スネアドラムを縦に配置し、表裏4本ずつ計8本のスティックが両面を叩く両面太鼓となっています。左右一対の円筒のスリットに音符に合わせてピンをさすことで様々なリズムを演奏することができます。2小節で1回転する2小節ループ仕様です。設計したメンバーの発案でダビンチのスケッチには無かった、16分音符と3連符の両方を演奏できる画期的なシステムが組み込まれました。両面太鼓の片側はバネを弱くして「ゴーストノート」が演奏できるようになっており、グルーブに表情がつけられるようになっています。両面を叩くため、通常は下面の皮の表面に取り付けられる響き線が内側に取り付けられています。
ハイハットは2本のスティックで叩く仕様で、そのメカニズムはほぼダビンチドラムと同じです。
上下2枚のハイハットシンバルのうち、上側のハイハット・シンバルを上下させるのにはカムを使いました。グルーブごとのタイミングに合わせて切り出されたカムが、回転しながらハイハットを上下させます。ピンの差し替えに加え、曲ごとにカムを交換することで、「チッ」という短い音と「チー」という長い音を自在に出すことができます。ダビンチ・スネアがスティックをピンが直接動かすのに対し、ハイハットはピンがカムを動かし、そのカムにつけられた糸が遠隔操作で離れた位置にあるスティックを動かす仕組みになっています。この糸による遠隔操作は、鹿児島県知覧の人形カラクリ水車を見学に行ったときに見た仕組みにヒントを得たものです。
カホンは元大工さんが作りました。左右一対のハンマー状のビーターが差し替え可能なカムにより動作します。
やはり差し替え可能なカムにより動作します。
リズムに合わせて切り出されたカムがシェイカーを振る腕を前後に振ります。
シャフトに取り付けられた左右一対の楕円カムが左右一対のふいごを交互に開閉し、そこから送り出された空気はさらに圧力調整用ふいごに送られ、一定の圧力となります。ふいごの空気は鍵盤ハモニカや、シャボン玉発生装置、リズムに合わせて伸び縮みするピロピロ笛などに使われました。
水車の杵のイメージで作られた楽器です。長さの違いにより異なる音程を持った竹の筒が、差し替え可能なカムにより上げて落とされ音を出します。素材には最初の制作地である神奈川県藤沢市の竹と、とびがもり水車音楽祭の地元岩手の竹が使われています。
半音のキー(ピアノの黒鍵に当たる)の無いダイアトニックな鉄琴(12鍵、1オクターブ半)と、半音階のクロマチックな鉄琴(24鍵、2オクターブ)の2台が並列に配置されています。それぞれをオン・オフ切り替えすることにより異なるパターン(例えばAメロとサビ)を演奏することも、同時に鳴らしてより厚みのあるサウンドを出すことも可能です。それぞれがピンの差し替えによりオルゴールの原理で自由に旋律・和製とリズムを演奏することができます。変速ギアを入れ替えることにより、2小節、4小節、8小節と3通りのループに変えられます。
これまで見るに取り付けられた装置は全て最大で8小節のループを演奏するものでしたが、フェイジングミルは全く違う発想のもと作られた機構です。現代音楽の作曲家スティーブ・ライヒが好んで用いた「フェイジング」という技法にインスパイアされたアイディアです。
歯数64の歯車@と65の歯車Aを噛み合わせ、歯車@が1回転する毎に歯車Aが歯1枚分ずつ遅れていきます。歯車1枚は8分音符に相当するので、4小節につき8分音符1つづつずれていくことになります。@とAにユニゾンのループをセットすると、4小節でAのフレーズが8分音符1つ分遅れて、ディレイのような効果となり次の4小節で今度は4分音符1つ分遅れて、、、という具合にズレによって徐々にアクセント・シンコペーションの位置が変わっていき大きな展開を見せたのち、あるところでまたユニゾンになるという仕組みです。
8インチの超小口径スネアドラムですが本格的な作り方で良い音がします。「種まきミル2号」のスネアが両面だったのに対し片面の仕様ですが、4つのスティックとピンの配置のより16分音符と三連ぷの2通りのグルーブが可能です。スネアの位置を変えることによりリムショットも可能になりました。
2本のスティックで8分音符と3連符の両方のグルーヴが演奏可能です。
小型の「旅人ミル」に収納するため、平べったい形状となりましたが見かけに寄らずパンチの効いた低音が出ます。これまでの楽器のほとんどが円筒状のカムに差されたピンで動作するのに対し、円の表面に取り付けられたカムがビーターを動かします。当初1ビータ仕様で連打ができなかったのを、ピンの長さを変えて2つのビーターを打ち分ける仕組みによりダブルビーター仕様になりと連打が可能となりました。この、ピンの長さの違いで2つのビーターを制御する仕組みはブルーノ・ムナーリの作品にヒントを得ました。
カウベルは1ビーターで仕組みはカホンと同様です。
シンプルに2鍵盤仕様、曲によって鍵盤を付け替えて演奏します。
40枚の絵がパラパラとめくられてアニメーションが楽しめる機構です。絵は差し替え可能な仕様になっています。地元東山町のイラストレーター戸田さちえさんによる、可愛い猫が落下するアニメや不思議なアメーバ上の物体がふわふわと飛ぶアニメが楽しめます。